藤井六段の活躍だけでなく、羽生永世七冠の誕生や、初代(?)天才棋士の名をほしいままにした加藤一二三九段(愛称ひふみん)の引退からメディアの露出など、将棋界が今また盛り上がっていると言っても過言ではないでしょう。
かく言う私、Dも、小学生のときに将棋の面白さに目覚め、親に頼み込んで将棋の通信講座を申し込み、のめり込んで将棋を猛勉強し、近所の大人たち相手に無双していたときもありました。その通信講座の講師だった谷川浩司九段が今でも一番好きな棋士で、誕生日が同じであったこともありましたが、彼の最年少名人位獲得という偉業の達成や、後に『光速の寄せ』と呼ばれるようになった終盤力の強さに特にあこがれていました。
そんな小学生の少年Dが、もう一人注目していたのがその頃まだ高校生棋士であった羽生善治(当時五段)です。伝説の5二銀の対戦も(実際は収録ですが)リアルタイムで見ました。彼もまた、あこがれの棋士の1人ではありましたが、羽生一強時代を築くほどのスター棋士になるとは思ってもいませんでした。
時は流れ、私自身はあまり将棋を指さなくなり、棋力もずいぶん落ちてしまってはいますが、時折将棋界が盛り上がるのを見てうれしい気持ちになっています。
また、将棋はお堅いイメージがありますが、面白い棋士もそれなりにいます(笑)ので、Youtube等でそういった方たちを見れば将棋に対するイメージがだいぶ変わるかもしれませんね。
さて、将棋に対するメディアの扱いが増えたことで、「将棋をやってみよう」と思う小学生、中学生も相当数いらっしゃることと思います。「将棋は勉強にも役立つのではないかしら?思考力が鍛えられるし」と思う親御さんも少なからずいらっしゃるでしょう。
将棋と学力
プロ棋士になるのはどのくらい難しいのか、という質問に対してよくあるのが
「東大に入るより難しい」
という回答です。
故米長邦夫永世棋聖の
「兄たちは頭が悪いから東大に行った。私は頭が良いから将棋の棋士になった」
は有名な言葉ですが、それは語弊があるとしてもプロ棋士になるのは確かに大変なことです。将棋の知識、試合の構想から相手の対応を読むまでの総合的な思考力、その他常人では思い至らないもしくは身につかないような様々な「実力」が必要でしょう。
(参考までにアマの三段~五段がプロの6級と同程度の実力です。プロ棋士になるためには奨励会に入会しなければなりませんが、その開始が6級となります。)
もちろん将棋が強いから勉強ができるとは限りません。しかし、将棋と学問には共通点は多々あります。
暗記力
将棋には手筋や定石(戦型とその組み方および戦いの仕方や中終盤までの流れ)といった覚えておかなければならないものが非常に多くあります。最新の定石が生まれればそのたびに覚え直しです。将棋は情報戦でもあるので、相手の知らない定石で対戦を挑めば非常に有利になりますから、棋士たちは常に新しい手筋や定石を覚えますし、忘れないように確認します。自分の対戦はもちろん他者同士の対戦についても可能な限り覚えています。同じような戦況に遭遇した時にその記憶が役に立つからです。
計算力
将棋では数を扱うわけではありませんが、自分の手と相手の対応を数手先まで読み合うことが必要になります。読みの中にはいくつかの分岐があり、その先まで読むとするなら短時間でかなり多くの未来の進行を「読む」必要があります。これは学力で言えば計算力、もっと言えば暗算力にほかなりません。正確に、ではなく大体こうなるだろうという大まかな予測であれば、想像力や推測力と言い換えてもよいかもしれません。
演習
他の棋士と多くの対戦を積みます。時間を計ってお互いに制限時間のある中で思考し、最善手を指そうと努力します。対戦が終われば感想戦をおこないます。感想戦はその対戦をもう一度並べ直し、「ここはこうしたほうが良かった」とか「この手を指したらどう変化しただろうか?」と対戦者同士で反省を行うものです。将棋には絶対的な模範解答が常にあるわけではないので、対戦者同士でよりよい解を求めていこうという姿勢が重要です。
研究
過去から現在に至るまでの膨大な、優れたものだけ取り出してもそれでもまだ膨大な実戦記録(棋譜と言います)を、実際に盤に駒に並べながら再現し、そのときの指し手の思考を追体験して自分の棋力向上につなげる努力。のみならず、そこから新たな手を見いだしてその変化を考えます。新定石の可能性があれば棋士同士で協力して徹底的に研究をして、実戦へと導入していきます。またその対策も別の棋士たちによって研究され、永久に無敵の戦術は今のところ存在していません。
勉強も同じですね。
覚えるべきものは必ず暗記しなくてはなりませんし、計算力や思考力はもちろん鍛えなくてはなりません。問題文を読んで、求められている解答は何なのかを正確に理解することは出題者の意図を「読む」力であり、難問を解くには必要不可欠なものです。問題パターンを理解し覚えておくことは、将棋で手筋や定石を身につけるのと同じです。基礎が固まれば過去問や実戦問題を時間を計って、かつ、大量にこなし、間違えた問題は反省して正解の出し方を確認する。それを繰り返していく中で模範解答よりもよい考え方や解き方、別解を思いつく人もいるかもしれません。
以上のことから、将棋の素養は学力向上に大きく影響すると言えます。
当教室では将棋に興味を持った生徒さんに、授業の合間の空き時間に将棋を楽しめるように将棋盤と駒を複数用意しました。将棋をすれば即、学力向上がかなうわけではありませんが、勉強への取り組み方がよくなったり、持続して思考する耐性をつけたりするのに少しでも役立てることができれば幸いかと考えます。
ご家庭でも将棋を!
クラウン 将棋駒 材質:プラスチック製 CR-SY0
文責:D